米下院外交委員会が従軍慰安婦問題に関する対日謝罪要求決議を採択するに至った契機の一つとして安倍晋三首相による「慰安婦狩り」を否定する発言があり、これは、官憲によって組織的に従軍慰安婦を強制連行させていた事実はない、ということのようだ。
例えば、戦時中に米国の政府機関が行った聞き取り調査によると、軍部の委託を受けた売春斡旋業者が看護婦や工員を募集する虚偽の広告を出して慰安婦となる女性を集めるということが行われていた。戦前の日本で売春は合法だったので、少なくとも非戦闘地域では、官憲を動員するのではなく、売春斡旋業者に慰安婦徴用をアウトソースする形態が確かに一般的だったのではないかと思う。
だが、もし「だまされて連れてこられました。お家に帰してください」と被害者が訴えれば、彼女たちを故郷に送還し、業者を処罰していたのなら、ほとんどの慰安婦が非自発的に就業するはめにはなっていないだろう。実際には悪質業者が厳しく取り締まられるようなことはなく、結局、だまされたり拉致られたりして連れてこられた女性を軍人たちが有無を言わせずに性奴隷にしていたのであって、従軍慰安婦問題の本質が、徴用形態ではなく、こちらの方にあるのは明らかだ。
にもかかわらず、軍慰安所の運営は民間業者に委託していて軍部は(統制はしていても)直接手を汚していなかったとか、兵士が現地の女性を拉致して慰安婦にするような現場の行き過ぎがあったとしても、軍部・政府が拉致を組織的に実行させていたのではないとかいった主張をして外交問題化することに何の意味があるのかよくわからない。被告人の正当な権利より被害者感情を優先せよという昨今の風潮とも完全に矛盾するしなぁ。外国人は被害者のうちに入らないってことなのか?!
しかも、旧オランダ領東インドで収容所のオランダ人女性が強姦・強制売春の被害者となったケースでは、オランダの戦争犯罪法廷で有罪判決が出ていて、サンフランシスコ講和条約第11条には「日本国は、極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾し」と定められているので、旧日本軍による強制売春を政府の公式見解として否定しようとすれば、サンフランシスコ講和条約を否定することにつながる。日米同盟を維持しつつサンフランシスコ講和条約を破棄するなんてまったくもってありえない。
といったわけで右翼政治家の皆さんがワシントン・ポストに広告まで出しちゃったりして何をしたいのかよくわからないが、現在の日本人が戦前の侵略行為を深く反省し平和を愛する国民ではけっしてなく、公然と戦前の軍国主義を賛美し近隣諸国の人々を蔑視する勇猛な人々が日本に少なからず存在し、米国に逆らうつもりは毛頭ないにしても、米国が後ろ盾になってくれさえすれば、朝鮮半島・中国大陸等でかつての蛮行を繰り返し、周辺国に対し大和民族の優越性を誇示したくてうずうずしてることを欧米諸国に知らしめる良い機会になったのではないだろうか。